小説「幻の女」作者ウイリアム・アイリッシュ/稲葉明雄訳

 小説「幻の女」を読んだ。目次の各章のタイトルが死刑執行N日前、死刑執行当日、死刑執行時、死刑執行後となっていて主人公が死ぬのが分かっていて本文を読むのも気が進まないと思っていたが気を取り直して読むことにした。読んでみたら主人公が死ぬような捻りのない話では無かったが作者のトリックにまんまと引っかかってしまった。目次そのものがトリックであり事件当夜の犯人の記述が無いのと本文そのものが犯人をカモフラージュした構成となっており読者の視野の外に犯人がいる構造でこれではトリックに気がつくはずがない。死刑執行後の章で刑事が種明かしを長々と解説して締めくくっている。何か後味の悪さが残って気分が悪かったが物語の著述、情景の描写は、分かりやすく結末の直前までは面白く読めた。まあロンバードが幻の女を追い詰めた時 あれこの女キャロルじゃ?と思ったがこの時点でロンバードが犯人と分かっては後の祭り。読んだ後 色々と疑問が湧いてきてこれおかしいんじゃないのって所が気になってきた。先ずマーセラ殺害の第1発見者と警察に誰が通報したのか全く書かれていない。普通第1発見者が真っ先に容疑者として疑われるだろう。事件現場で警察が部屋の鍵をかけて中でヘンダーソンが帰って来るのを待っているなんて変だろう。それに翌日以降の事件の捜査も杜撰過ぎる。幻の女の目撃者が多数いるのに見逃している人数が多すぎる。BARの客の女、タクシーの運転手アルプ以外の2人、カジノバーのドアマン、ダンサーのメンドーサ、幻の女が立ち上がってメンドーサに花を要求した時に見ていた観客全員、煙草で火傷した乞食等。あとは事件当夜のロンバードの行動の異常さ、こんなこと一晩で出来ないだろう。特に深夜に目撃者を探し出しての買収工作 まるで翌日の警察の捜査の重点ポイントを知っていたかのようだ。いくら何でもタクシーの運転手がアル・アルプだと突き止めるのは絶対に不可能だ。ヘンダーソンと幻の女を乗せたタクシーがあと2台ありこちらの運転手を探さないのは片手落ちにもほどがある。まあ不平不満は、このくらいにしておいて事件当夜の図解でもして腹の虫を納めることにする。



事件当夜のヘンダーソン、幻の女、ロンバードの行動を図解


ヘンダーソンのアパートとBARアンセルモの位置関係・・・・・黒線
幻の女の歩いた動線・・・・・赤線
アパート、アンセルモの位置は推定 ホテルは、大体その辺り



ヘンダーソンの足取り
ヘンダーソンの事件当夜の足取りがアリバイ成立に重要であるので検証してみる。ヘンダーソンは深夜0時過ぎにBARからタクシーで7ブロック走ってから左に折れ1ブロック走って角のアパート前で降りている。現場検証で50番通りから4ブロック行った辺りにアンセルモがあるのがハッキリしているので54番通りか46番通りのどちらかにBARアンセルモがある。54番通りから交差道路を南に7ブロック向かえば47番通りの街区の角にアパートがあるということになる。46番通りからだと北に7ブロック先の53番通りの街区の角にアパートがあるはずである。条件を限定して検討したいのでBARを54番通りアパートを47番通りにして交差道路を幻の女が帰っていったレキシントン街とする。

47番通りと3番街の交差点にある建物 ここがヘンダーソンのアパートだろうか
ヘンダーソンの部屋は6階で上に登る階段にロンバードが隠れていたから建物は7階以上必須である。画面の左右に走る道路が3番街、画面奥方向に伸びる道路が47番通り
ヘンダーソンは、5時45〜55分くらいにアパートを出て夜の街を歩いて行った。
現場検証でアパートを出て3軒目当たりで6時の鐘の音を聴いたとヘンダーソンは証言する。

ヘンダーソンは、47番通りを西に1ブロック進んで交差するレキシントン街へ右へ曲がり北に向った。道順はタクシーで帰ってきたのと逆順とする。画面右方向がレキシントン街

レキシントン街を北に3ブロック進み50番通りまで来た。現場検証で50番通りを通過したと記述がある。

更に4ブロック北上し54番通りの交差点 現場検証でここを過ぎる当たりで刑事とヘンダーソンがもうそろそろBARのあたりだというやり取りをする。ストップウオッチ表示8分半

ヘンダーソンがBARアンセルモを見つける。47番通りで6時の鐘の音を聴いてから9分過ぎたと刑事がストップウォッチを確認した。この時点で6時9分だとBARに入りウイスキーを注文して飲んで幻の女に話しかけ掛け時計が6時10分を指しているのを確認するまで1分しかない。これはありえん。
事件後の事情聴取でヘンダーソンはBARに入ったのは6時2、3分だと証言しているしロンバードが深夜2時過ぎにBARに行きバーテンを買収する際にバーテンはヘンダーソンが6時2、3分に店に入ってきたと言っている。この方が6時10分まで7、8分あり自然だ。しかしこの場合6時の鐘から2、3分でBARまで歩かないといけない。47番通り1ブロックとレキシントン街7ブロック合計1km弱とてもこんな早く歩けん。現場検証では9分だ。こういった矛盾は推理小説の中であってはいけないだろう。矛盾を解消するには6時の鐘の事象を省くか店に入った時間を6時9分頃、BARの掛け時計の時刻確認を6時15分にすればいいだろう。作者の時間設定がそもそもおかしい。


幻の女の足取り
午前0時過ぎ頃BARアンセルモでヘンダーソンと幻の女が別れの1杯を飲んでからヘンダーソンが先に帰りしばらくしてから幻の女は、店を出て徒歩で帰っていった。
アンセルモから北へ1ブロックの辺り レキシントン街と55番通りの交差点
店を出てから気まぐれに歩いて行くのだが北に向って歩いたのは小説のあとの方の記述で明らかである。

レキシントン街と56番通りの交差点

小説で記述のあった所 レキシントン街から57番通りへ出て西に向かう
交差点を左へ曲がる。

57番通りを西に向かう。パーク街へ

5番街へ

交差点を右へ曲がり5番街に出る。

5番街を北へ2ブロック歩くと59番通り前の広場のシャーマン将軍像に出る。
幻の女は、ここでしばらくベンチに座る。

シャーマン将軍像を後にして59番通りを東に向かう。

59番通りを歩いていく。

幻の女は、店のショーウィンドウの美術品を見る。

59番通りと2番街の交差点 前方にクィーンズボロ橋が見える。

幻の女は、59番通り外れのホテルに入る。午前2時
幻の女は、ロンバードが戻ってくる前にホテルを出る。午前2時〜5時の間


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